正直に言うと、僕がいちばん引きずっている副業の失敗は、単価の安い案件を大量に受けて本業に支障を出した年のことです。作業量がきつかったのはもちろんですが、あとから効いてきたのは請求のほうでした。請求書に書いた金額をそのまま足して月の入金予定を組んでいたので、実際に振り込まれた金額とずれる。件数が多いぶん、ずれも積み上がる。源泉徴収の計算を、請求書を出す前にやっていなかったからです。

副業でライティングとECサイト運営を6年、開業届を出して青色申告は3年目になりました。今は請求書の金額欄を埋める前に、源泉徴収の計算を先に済ませています。この記事では、その手順と、請求書に書く差引後の受取金額の出し方を、僕がやっている順番で並べます。

請求書を作る前にやること:その報酬が源泉徴収の対象か見分ける

最初に確認するのは、その仕事の報酬が源泉徴収の対象かどうかです。業務委託だから何でも引かれる、というものではありません。国税庁の説明では、居住者に支払う原稿料や講演料など、所得税法で定められた報酬・料金に限って源泉徴収が必要とされています。ライティングの原稿料は、その説明の中に例として挙げられている仕事です。

💡 名目にも気をつけたいところです。謝金、取材費、調査費、車代といった名前で支払われるものでも、実態が報酬であれば源泉徴収の対象になります。請求書の項目名を言い換えれば外れる、という話ではない。取材の交通費をまとめて請求するような案件では、僕はここを先に読み直すようにしています。

税率を当てはめる前にやること:報酬本体と消費税を分ける

次に、請求金額を二つに割ります。報酬額と消費税額が請求書の上で明確に区分されている場合は、消費税等を除いた報酬本体だけを源泉徴収の対象にできます。区分がない場合は、原則として消費税等を含めた総額が対象です。

同じ11万円の請求でも、区分するかしないかで対象額が10万円と11万円に変わります。差は小さく見えても、件数が増えれば入金予定のずれとして戻ってくる。僕は請求書の書式で、報酬本体の行と消費税の行を最初から分けたままにしています。

入金予定を組む前にやること:税率を当てはめて1円未満を切り捨てる

計算式そのものはシンプルです。源泉徴収の対象額をAとすると、Aが100万円以下なら A×10.21%。100万円を超えるなら (A−100万円)×20.42%+102,100円。そして最後に1円未満を切り捨てます。10.21%は、所得税10%に復興特別所得税を加えた合計税率です。

仮の金額で、二つのケースを並べてみます。1件ごとの原稿料なら上の行、年間でまとまった契約や大きめの一括案件なら下の行の式に入ります。

源泉徴収税額と差引後の金額の計算
源泉徴収の対象額(A) 計算式 源泉徴収税額 差引後の金額
100,000円 A×10.21% 10,210円 89,790円
1,500,000円 (A−1,000,000円)×20.42%+102,100円 204,200円 1,295,800円

100万円を超える部分だけ税率が上がる形なので、150万円の案件がまるごと20.42%で引かれるわけではありません。僕の副業は年間売上がいちばん多かった年で約180万円、経費を引いた手取りは半分以下でしたが、1件あたりで見れば上の行の計算で足りることがほとんどです。

出典:国税庁No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは/No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき

振込額を書き込む前にやること:請求総額から源泉徴収税額を引く

ここまで来れば、請求書に書く数字は出ます。報酬10万円と消費税1万円を分けて記載した請求書なら、請求総額は11万円。源泉徴収の対象は報酬本体の10万円なので、税額は10,210円です。請求総額からこれを引いて、実際に振り込まれるのは99,790円。入金予定のカレンダーに書くのは、11万円ではなくこちらの金額です。

朝の机で二つの器に豆を分け、差し引く分を間に小さく取り分けた源泉徴収の計算の演出イメージ

請求書の面では、報酬本体、消費税額、源泉徴収税額、差引振込額、支払期日を分けて並べておくと、対象額と入金額のどちらを見ているのかが自分でも相手でも迷いません。欄の作り方は副業・業務委託の請求書テンプレートの選び方で書いたので、書式から直したい方はそちらもどうぞ。

僕が毎回なぞっている順番は、この5つです。

  • ✅ 報酬の種類が源泉徴収の対象か確認する
  • ✅ 報酬本体と消費税を請求書で区分する
  • ✅ 対象額に税率を当てはめる(100万円を超える部分は20.42%)
  • ✅ 1円未満を切り捨てる
  • ✅ 請求総額から源泉徴収税額を引いて振込額を確かめる

入金を待つ前にやること:納める人と支払期日を切り分ける

引かれた税金を納めるのは、報酬を支払って源泉徴収した側です。受け取る僕たちではありません。国税庁の説明では、原則として実際に支払った月の翌月10日までに納付することになっています。給与などに認められている納期の特例は、税理士や弁護士といった一定の報酬に限られていて、原稿料や講演料はその対象に入っていません。相手の納付スケジュールと、自分の入金日は別の話だと切り分けておくと、催促の連絡もしやすくなります。

支払期日そのものは、税ではなく取引条件の話です。公正取引委員会のフリーランス法特設サイトでは、従業員を使用しないフリーランスへの業務委託について、発注者が業務内容・報酬額・支払期日などを直ちに書面か電磁的方法で明示すること、支払期日は給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間に定めることが説明されています。「翌月10日まで」のように日が特定できない書き方は、支払期日の明示としては足りない。受注前に確認する項目は業務委託で副業を始める前の契約条件チェックに寄せてあります。

今は、週末の午前に請求書をまとめて作るとき、金額欄より先に源泉徴収の計算メモを作ります。時間にすれば1件あたり数分。あの年の僕に足りなかったのは、その数分でした。

みなさんは、次の案件の入金予定を、請求総額と差引振込額のどちらの数字で組みますか。手帳に書く一行をどちらにするかで、来月の見え方は少し変わるかもしれません。